八潮のむかしばなし(十話)
更新日:2018年12月6日
お茶屋寺
(二丁目)
わたしが子どものころ、下二丁目の西蓮寺さんをお茶屋寺とよんでいたんだよ。
むかし権現様というえらい将軍様がおってこの付近でお鷹狩りをしなさったんだ。そのおり、西蓮寺さんに立ち寄ったんだってさ。
きゅうのおこしで、うろたえたのは坊様だ。田舎もんのことだからどうもてなしていいかわかんねーから、寺じまんの井戸水さー、さしあげることにしたんだ。
「田舎ゆえにこの寺にはなんにもありませんが、田舎の水はたんとあります。」
とさしだしたんだと。
権現様は、その水っこを「ゴクン、ゴクン」と、のどをならしながら飲み、
「この水は、そち方の水か。どうして味が良いのか。」
と、お聞きになったんだと。
日ごろ、ツーといえば、カーというもの知りでとおっている坊様だが、「うめーから、うめーんだ。」とは、答えられねーで、口こっさーつまっちまった。
「この井戸は寺のたつみにあります。川の水がやっぱらにしみこみ、茅が水をこしてくれるので、味がよくなります。」
と、お答えしたそうな。すると、
「もういっぱい所望することにして、井戸から川にむかって一町の茅野は、そち寺の寺領とせよ。」
とお命じになられた。そして寺領目録を書いてくださったんだと。
その後も、代々の将軍様がこの付近でお鷹狩りをすると、西蓮寺さんのお水をおつかいになったそうな。それから、お茶屋寺と呼ばれるになったんだとよ。