八潮のむかしばなし(十四話)
更新日:2018年12月6日
又右衛門堀
(八条)
「村の衆、今年こそは悪水落し堀をほって、水ぐされをふせごうではねーか。」
「・・・・・」
「まい年、かんばつとたん水になやまされ、そのうえ高い年貢では、このままではお天道さまのもとで、暮らしちゃいけめー。ドブッタでも悪水の堀をほれば、美田になるでねーか。」
和之村耕地は、八条用水にめんしていた。だが、テビぐらいの堀だけのため、雨がふらないとかんばつ、長雨だとたん水し、村人をくるしめた。そこで又右衛門は、村の衆に堀のひつようを口すっぱく説明したが、だまっているだけであった。
村人のさんせいをえられなかった又右衛門は、自費で堀をほることにした。八条用水から中川までの水田を買いもとめ、そして人夫をやとって堀をほった。矢野又右衛門の家は、八条村の村役の家柄であったが、落し堀をほるためにむりな出費をした。堀がかんせいし、来年こそは豊作と喜んだ又右衛門ではあったが、堀づくりの心労で病に倒れ、なくなった。大黒柱の働き手を失った矢野家は、堀の借財をせいりして絶家した。
その後、和之村の人たちは、二度と水で苦しむことがなくなり、実りの秋をむかえると、又右衛門のことを思い出すそうな。そして堀を又右エ門堀と呼んでいるそうな。