八潮のむかしばなし(十三話)
更新日:2018年12月6日
土手まもり様
(二丁目)
「上手の土手が切れそうだ。」
「鋤や鍬、もっこをもって氷川様さへ最寄れとの名主様からの言いつぎだ。」
名主様からのお呼びということで、二町目の村人らがかけつけると、古利根川が増水し、今にも土手が切れる寸前であった。名主様の差配で、しょしょに水防にあたった村人らは、
「どうせ上手の土手は切れ所だ。」
「土俵さー積んでも無駄じゃねーか。」
という気が先立ち、水防に身が入らなかった。案の定、土手が切れて二町目村は水びたしとなった。
今までに、どんな立派な土手を作っても、二町目氷川様の所だけは切れてしまう。二町目の村人たちは一生懸命に立派な土手をつくり、氷川様へ堤が切れないように神頼みをしてきた。しかし、たびたび土手が切れてしまうので、土手の修復に身が入らなかった。
築堤に身が入らない様子を見た普門院の浄西様は二度と上手の土手が切れないように願をかけて行に入った。そのことを知った村人らは朝な夕なに普門院へ参詣し、賽銭を供えた。その浄財で浄西様は、高さ六尺程の石仏を作った。
そして村人に、
「この石仏に、二度と土手が切れないように開眼した。」
「石仏を切れ所の土手上に立てるから、土手を直して欲しい。」
とお話をしなさった。
村人たちは、石仏が流されないように、一生懸命土手を直したんだと。それからは二度と土手が切れなくなり、村人たちは石仏を「土手まもり様」と呼ぶようになったとさ。